デジタルツインとAIの融合がもたらす次世代の開発戦略

 2025.06.12  デジタルビジネスシェルパ

デジタルツインとAIの融合は、リアルと仮想の世界をシームレスに結び付け、業務プロセスの最適化や迅速な意思決定を可能にします。本記事では、DXを推進する企業担当者に向けて、デジタルツインとAIの最新情報、AIがデジタルツインにもたらす効果、さらに業種別にデジタルツイン×AIの活用例について解説します。

デジタルツインとAIの融合がもたらす次世代の開発戦略

デジタルトランスフォーメーション(DX)に 取り組むエンタープライズ企業の成功と挫折の現状

新たな価値を生み出すデジタルツインとAIの融合

新たな価値を生み出すデジタルツインとAIの融合

デジタルツインとは、現実世界から収集したデータを使い、仮想空間(デジタル空間)で現実世界の挙動を正確に再現する技術のことです。「デジタルツイン」という名前は、仮想空間に現実世界と双子(ツイン)のようにそっくりな環境を再現できることに由来しています。デジタルツインは、現実世界では困難なシミュレーションができ、さまざまなシナリオを検証することで、実際に起こり得る変化や問題に備えることができます。そのため、製造業や建築業、小売業など、あらゆる分野での活用が期待されています。

デジタルツインをより現実世界に近づけるための制御や分析などにもAIの技術は利用されています。AIは、構築されたデジタルツインから得られるビッグデータを解析することで、品質向上や迅速な意思決定を支援します。さらに、AIがデジタルツインのデータを分析・活用することで、より精密なシミュレーションや異常の予知、業務プロセスの最適化を実現します。

デジタルツインとAIの最新情報

最新の研究では、AIがデジタルツインの構築や運用に革新的な効果をもたらすとされています。AIは複雑なシステムの挙動を学習し、仮想環境でのシミュレーション精度を向上させ、デジタルツインの構築や運用に革新をもたらします。これにより仮想空間でのシミュレーション精度の向上が期待できます。

デジタルツインとAIの最新情報といえば、2025年3月に開催されたGTC 2025が挙げられます。GTC 2025はアメリカ・カリフォルニア州サンノゼで開催されたNVIDIAの年次カンファレンスです。世界各国から来場者が訪れ、AI開発に欠かせないGPUやAI、デジタルツイン等における最新技術の発表や最先端テクノロジーについての基調講演などが行われました。

Omniverseデジタルツイン事例
NVIDIA Omniverseで実現する3Dデータ活用の未来像

GTC 2025:NVIDIAが描くAIとコンピューティングの未来

GTC 2025:NVIDIAが描くAIとコンピューティングの未来

GTC 2025では、NVIDIAのCEOであるジェンスン・フアン氏が基調講演を行い、GPUを活用した高速コンピューティングにおける最新技術と今後の展望を発表しました。ここでは基調講演での主な発表内容について紹介します。

基調講演での主な発表内容

ジェンスン・フアン氏による基調講演で、注力すべきポイントは大きく4つあります。
  • AIファクトリーとAI需要の高まり
    基調講演でジェンスン・フアン氏が強調したのは「AIファクトリー」という新しい概念でした。これは、近年におけるデータセンターでのGPU導入の飛躍的な増加と、AIの進化およびニーズの高まりを背景としています。リーズニングAIとエージェント型AIの登場により、GPUの需要は急速に高まっており、その規模は1兆ドルに達すると予測されています。フアン氏は「AIは転換期を迎えている」と強く宣言し、データセンターが今後AIファクトリーとなっていくと説明していました。
  • GPUのロードマップ
    NVIDIAは、今後年1回のペースでAIインフラの更新を行う予定であることを発表しました。現在量産中のGPUアーキテクチャBlackwellは、前世代のHopperよりも40倍のパフォーマンスを発揮し、効率的で拡張性に優れています。さらにバージョンアップした次世代GPUアーキテクチャであるBlackwell Ultraは2025年後半に登場する予定です。Blackwell Ultra以降も、Rubin(2026年)、Rubin Ultra(2027年)、Feynman(2028年)といった新たなアーキテクチャの投入計画が明かされました。
    2025年(現在):Blackwell
    2025年(後半):Blackwell Ultra
    2026年:Rubin
    2027年:Rubin Ultra
    2028年:Feynman
  • AIインフラの革命
    フアン氏は、AIインフラが業界に大きな革命をもたらすことについても言及しました。高度なネットワーキングとストレージなどは、大規模データセンターにおいて、AIの拡張性や効率性の向上、エネルギー消費の削減に寄与するとされています。NVIDIAでは、クラウド用、ロボット用、エンタープライズ用のAIインフラの構築も進めています。
  • ヒューマノイドロボット開発について
    NVIDIAは、ヒューマノイドロボット用に開発されたフィジカルAIが50兆ドル規模のビジネスチャンスになると予測しています。これに伴い、NVIDIAはフィジカルAIを進化させる「NVIDIA Cosmos」や、汎用的なヒューマノイドロボットのAI基盤モデル「Isaac GR00T N1」を発表しました。

参照元:GTC 2025 – NVIDIA が今年最大のイベントで、新しいサービスとハードウェア、テクノロジ デモ、AI の今後の展開など、さまざまなニュースを発表

AIがデジタルツインにもたらす価値と効果

AIがデジタルツインにもたらす価値と効果

AIとデジタルツインを掛け合わせることで、以下のような価値や効果が期待できます。

  • 予測精度の向上とリスクの低減
  • リアルタイムデータの即時反映と迅速な意思決定
  • フィジカルAIとデジタルツインの融合によるロボット学習の効率化
  • アフターサービスの充実と顧客満足度の向上

予測精度の向上とリスクの低減

デジタルツインにAIを組み合わせることで、予測精度の向上とさまざまなリスクの低減が可能になります。例えば、製造業ならセンサーやカメラなどのIoTデバイスを活用して得たリアルタイムデータをAIが分析することで、異常の検知や機械の故障予知に役立ちます。これにより、予期せぬトラブルを最小限に抑え、ダウンタイムやメンテナンスコストの削減が期待できます。また、リアルタイムデータとシミュレーション結果をAIが繰り返し比較することでより精度の高い予測が可能となり生産性の向上に貢献します。

リアルタイムデータの即時反映と迅速な意思決定

AIとデジタルツインの融合によって現場の状況をリアルタイムで確認できるため、トラブルが起きた時の初動対応をはじめとする迅速な意思決定が可能です。例えば、生産ラインが停止した場合でも、デジタルツインを活用して問題の原因を特定し、適切な対策を迅速に講じることで、生産ラインの早期復旧につなげられます。

デジタルツインの導入効果は、リアルタイムデータの即時反映だけにとどまりません。現場の設備や生産プロセスを仮想空間上で再現・可視化することで、機械のトラブルシューティングや品質管理、工程の最適化などにも活用できます。GTC 2025の基調講演でも、ジェンスン・フアン氏がオムロン社製オートメーションソフトウェアSysmac StudioとNVIDIA Omniverseが連携してデジタルツイン環境を構築したことで、正確な装置内部の再現を可能にし、トラブルシューティングに貢献したことについて述べています。

参照:オムロンのオートメーションソフトウェア「Sysmac Studio」とNVIDIA Omniverse™の連携によって、 デジタルツイン技術を革新
参照:NVIDIA Omniverse

フィジカルAIとデジタルツインの融合によるロボット学習の効率化

フィジカルAIとデジタルツインの融合は、仮想環境で精度の高いシミュレーションを可能にし、現実世界では検証が難しい環境下でのロボット学習を行えます。そもそもフィジカルAIとは、現実世界の物理的な法則を学習させ、周囲の環境変化に応じて自律的に行動できるように開発されたものです。現実世界でロボット学習させるにはリアルな環境を用意する必要があり、開発コストが膨大になる恐れがあります。開発が長引くほど市場へ投入するまでの期間が長くなり、競合他社に先を越されてしまうかもしれません。

しかし、デジタルツインとAIを連携させてリアルタイムデータをもとにさまざまな環境を仮想空間に構築すれば、安全かつ効率的に学習させられます。そのうえ、開発期間を短縮できれば開発にかかるコストも削減できます。市場投入までにかかる期間の短縮によって、短期間で柔軟性と適応性の高いロボットを開発することも可能です。

アフターサービスの充実と顧客満足度の向上

AIを組み込んだデジタルツインがあれば、アフターサービスを充実させ、顧客満足度を向上させることができます。AIと融合したデジタルツインは、製品の使用状況をリアルタイムで監視できるため、メンテナンスやサポートを適切なタイミングで提供できます。お客様のニーズにも柔軟かつ迅速に対応することが可能で、顧客満足度や自社ブランドの信頼性の向上が期待できます。

デジタルツイン×AIの活用例【業種別】

デジタルツイン×AIの活用例【業種別】

デジタルツインとAIを融合することでさまざまな効果を得られるものの、業種ごとに課題や解決すべき問題点は異なります。最新のAIやデジタルツインでも自社の業種に合わなければ、導入する意味がありません。ここからは、製造業、建設業、小売業、医療を例にデジタルツイン×AIの活用例や各業種の傾向を紹介します。

製造業:生産ラインや品質管理の最適化

製造業では、デジタルツインとAIの融合によって、リアルタイムでの生産ラインの監視や予知保全、品質管理の最適化を実現し、不良品の返却率やエネルギー使用量の削減を図っています。例えば、生産ラインにIoTデバイスやセンサーを設置することで、機器や製品の異常や不具合を検知でき、速やかな改善や対策を講じることが可能です。

また、デジタルツインとAIを連携させて発生し得る問題を予測し、事前に対策を練ることで機器が故障する前に部品交換や修繕を行えるため、ダウンタイムの時間を大幅に短縮できます。さらにデジタルツインでのシミュレーションは、物理的な試作品を作成する労力やコストを削減するのに効果的です。仮想空間上で性能検証やテストが行えるので、最小限の労力とコストで製品の開発や改善ができます。

建設業:進捗管理の効率化

建設業では、建築プロジェクトの計画段階から施工、建物の維持管理まで各フェーズで効率化を実現するために、デジタルツインとAIが活用されています。具体的には、気象情報や作業員の配置情報、機械の稼働状況などのリアルタイムデータをもとに、仮想空間に建設現場を再現することで作業の効率化が図れます。

また、センサーやカメラ、ドローンなどのIoT機器で収集したデータをAIで分析することで、リアルタイムな進捗管理を実現させ、安全性の向上に役立てています。仮想空間上に設置されたカメラやレーダー、 LiDARなどの各種センサーからデータを取得できるので、現場に設備を持ちこむ前に事前動作検証などを行うことが可能になり、スムーズで効率的な作業が実現できます。

参照:Omniverse Cloud Sensor RTX API

小売業:店舗や物流拠点の最適化

小売業では、デジタルツインとAIの導入で、店舗運営や物流の最適化が進んでいます。例えば、仮想空間に店舗を構築して顧客の購買行動を分析したり、商品配置を最適化したりすることで、売上の向上を図っています。また、倉庫や配送センターといった物流拠点でもデジタルツインとAIを用いることで、在庫管理や配送ルートの最適化を実現し、効率的な物流体制の構築に成功しています。

具体例としては、サプライチェーンソリューション企業のKION Groupが、総合コンサル企業Accenture及びNVIDIA と連携し、運用効率を高めるMega Omniverse Blueprintを採用したことで、物流倉庫でのオペレーションの最適化を実現させています。このように、デジタルツインとAIの融合は、小売業の店舗運営や物流拠点の最適化にも役立ちます。

参照:NVIDIA が産業用ロボット フリートのデジタル ツインを構築するための「Mega」Omniverse Blueprint を発表

医療:健康予測や治療効果のシミュレーション

医療業界では、患者の健康管理や治療計画の精度の向上にデジタルツインとAIが活用されています。患者の身体情報を仮想空間に再現してシミュレーションすることで、患者ごとに最適な治療方法の選定や手術の事前計画ができます。また、手術支援ロボットなど医療機器や施設の稼働状況をデジタル上で可視化することで、病院の効率化や医療機器の故障予防にも貢献しています。

NVIDIAでもヘルスケア分野向けにNVIDIA Clara for Medical Devicesを展開しています。例えば、NVIDIA Clara Holoscanは、AI医療機器開発向けのプラットフォームです。デジタルツインを構築するプラットフォームNVIDIA Omniverseと組み合わせることで、医療イノベーションの推進を可能にします。さらに、NVIDIA Clara Holoscanによって手術支援ロボットや遠隔医療システムの開発や活用が進めば、遠隔医療や在宅医療の充実が図れます。

参照:NVIDIA Clara for Medical Devices、NVIDIA Clara Holoscan

まとめ

まとめ

デジタルツインとAIの融合は業種にかかわらず、企業のDX戦略を進化させ、業務プロセスの最適化や迅速な意思決定、コスト削減などが期待できます。導入には高額な費用負担や高度な技術が必要など、避けられない課題はあるものの、段階的な導入計画を立てたり、専門人材を確保したりすることで、効果的な運用が可能です。

特にデジタルツイン開発を支援するプラットフォームNVIDIA Omniverseを活用して構築されたデジタルツインは、使い勝手が良く、高い評価を得ています。その理由は、NVIDIA Omniverseが互換性のない複数のツールや3Dアプリケーションを統合し、リアルタイムでのシミュレーションができるプラットフォームだからです。

NVIDIAのエリートパートナーであるCTCは、NVIDIA Omniverseを活用し、国内の多種多様な企業に対してNVIDIA製品の導入をサポートすることで、産業用デジタルツインの構築を支援しています。

さらにCTCでは、NVIDIA Omniverseと連携できるプラットフォームの導入もサポートしています。例えば、NVIDIA AI Enterpriseは、さまざまな企業がAIを導入できるように開発されたソフトウェアプラットフォームです。デジタルツインとAIの連携による効果をご説明させていただきましたが、CTCはNVIDIAのGPUを搭載したインフラとその上で動作するソフトウェアソリューション群をワンストップでご提供可能ですので、是非ご相談ください。

NVIDIA×CTC

参照:NVIDIA Omniverse
(URL:https://www.nvidia.com/ja-jp/omniverse/
(URL:https://www.ctc-g.co.jp/solutions/nvidia/omniverse.html

参照:NVIDIA AI Enterprise
(URL:https://www.nvidia.com/ja-jp/data-center/products/ai-enterprise/
(URL:https://www.ctc-g.co.jp/solutions/nvidia/ai_enterprise.html

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