世界中で注目を浴びているAIは今年、新たな局面を迎えようとしています。これは2023年に進んだ大企業による投資合戦や、新たなAI技術への期待、そしてAIを取り巻く市場が活性化しているためです。今回は、北米におけるエンタープライズ向けITトレンドや投資トレンドから、最新のAI市場に関する状況を紹介します。
生成AIへの投資とトレンド
AIのトレンドはスタートアップ投資からも読み取れます。2017年から2022年までの期間、AIは製造業などで活用される外観検査や動作認識といった、視覚情報をメインとした領域が注目され、コンピュータビジョン領域への資金調達が活況となりましたが、2023年には、自然言語処理関連のAIスタートアップが急速に注目を浴びました。特に、MicrosoftがOpenAIに100億ドルの巨額投資を行ったことが大きく影響しているのは言うまでもありません。米国のトップティアベンチャーキャピタル、Sequoia Capitalは、AI関連スタートアップへの投資割合を16%から60%にまで上げているとされています。
OpenAIの一強状態と言える状況は続いていますが、これに挑む勢力の動きも注目されています。その一つは、Googleです。GoogleはLLMの領域で後れを取ったものの、OpenAIが登場する以前から、AIの領域でトップクラスの人材を抱えており、AIチャットのGeminiは現在も日々進化を続けています。Googleの歴史を見るとWeb検索でも、ブラウザでも実は後発で、後から大きなシェアを獲得したのも事実です。そのため、GoogleがAIの覇権を取る将来は十分にあり得るでしょう。もちろんOpenAIとGoogle以外にも、Anthropicなどの有力スタートアップが出現していますが、これ以外の勢力として、オープンソースソフトウェアがあります。Metaが開発しているLlamaが特に有名で、オープンソースであることから、ユーザーは十分な動作環境があれば自分のハードウェアで動作させることが出来ますし、これを派生させて独自の強化をしたLLMも多数登場しています。これはOpenAIやGoogleとは大きく異なる特徴です。しかしながら、今のところオープンソースのLLMは、なかなかGPTの精度を超えられないのも事実です。図は2023年の構図ですが、2024年に入っても、相変わらずOpenAIが独走している状況です。
引用:https://digital-shift.jp/flash_news/FN230607_3
これらAIも、テキストだけでなく、画像や音声に対応した「マルチモーダル化」が進んでいます。この進化の先には、前編で触れた人工汎用知能「AGI」の実現があるのかもしれません。
あらゆる製品がAIを搭載
IT業界では、自社プロダクトへのAI搭載も明確にトレンドになっています。GoogleやZoomといった大手はもちろん、これまでAIを売りにしていなかったスタートアップも、何かしらAIの要素を盛り込まないと売れない、資金調達もできないとすら言われています。
引用:The Generative AI Market Map - IAMEMORIES.COM
こうした流れは、北米のマーケティングにも現れていて、突如多くの企業のWebサイトに「AI」の文字が躍るようになりました。これは最近の日本のテレビCMで、AIという言葉が連呼されはじめたことと似ています。こうした手法は「AIウォッシング(AI Washing)」と呼ばれています。
しかし、AI単体で生き残れる企業はわずかでしょう。精度の高いAIを誰でも簡単に利用できるようになったことで、単なる賢いAI自体は相対的に価値を失います。AIを付加価値として上手く活用できることがカギになるのではないでしょうか。特に、LLMは様々な課題を抱えています。北米でも、データの質をいかに上げるか、小さなモデルサイズで高い精度をどう実現するか、セキュリティをどう担保するかといった課題を解決することを目指したスタートアップが次々と生まれています。
新たな分野に進出する生成AI
ここで私たちが注目するスタートアップ2社を紹介します。
まず「MindsDB」です。機械学習を「民主化」することを目的とした、オープンソースのソフトウェアを開発しています。これまで、機械学習を行うには高いスキルが求められましたが、SQLライクの操作で比較的簡単に機械学習を扱うことが出来るものです。
次に、「Liquid AI」です。変化するデータに対して柔軟に対応し、学習し続けられるニューラルネットワークを提供しています。これまでより少ないデータで学習し、精度の高い予測を行うことが出来ることが特徴です。
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