CTC DX Days 2022 イベントレポート【前編】

 2022.09.05  2022.09.06

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(以下、CTC)は、2022年6月に「CTC DX Days 2022」を開催しました。

今年は『データファースト』をテーマにデータ利活用を基軸としたDXについて、前回の「CTC DX Days 2021 Chapter2」に引き続き、先進的なDXの取り組みをされている企業様によるDXを推進する上での課題やその解決法、実践しているDX事例についてのご講演やITOCHU Techno-Solutions America, Inc.(CTCアメリカ)駐在員によるシリコンバレー発のDX最新動向の紹介、最先端のデータビジネスをけん引するリーダーの方々による「パネルディスカッション」が行われました。

本レポートでは、各ご講演内容の要点を前後半に分けてお伝えします。
みなさまにDX戦略策定におけるヒントをお持ち帰りいただければ幸いです。

【基調講演】中外製薬のDXを加速するデジタル基盤強化の取り組み

志済 聡子 様

中外製薬株式会社
上席執行役員
デジタルトランスフォーメーション統括
デジタルトランスフォーメーションユニット長
志済 聡子 様

中外製薬は、がん・バイオに強みを持つ研究開発型製薬企業です。独自の創薬技術力を持ち、国産初の抗体医薬を創製。抗体・中分子分野で世界最先端の技術力があります。

製薬業界には創薬に多大な時間がかかる割に成功率が低いという課題があります。開発の難易度も年々上がっており、莫大な開発コストも掛かります。同時に製薬業界には少子高齢化・医療財政ひっ迫やCOVID-19による安全保障の危機、医療ニーズの増加と疾患の複雑化といった社会課題の解決という期待がかけられています。デジタル技術を活用しながらこの課題を克服し、いかに革新的な新薬を創出するか、それが私たちのチャレンジです。

また、製薬・ヘルスケア産業には新たなデジタルプレーヤーなどが参入するとともに、伝統的な製薬業においても、その枠を超えた動きが加速しています。そのドライバーとなっているのがデジタルです。デジタルデバイスやネットワークを通じて様々な情報が集積され、それを起点として新ビジネスが生み出されています。

中外製薬のDX戦略

このような課題や環境の変化を踏まえ、中外製薬では2021年に新成長戦略「TOP I 2030」を策定しました。世界最高水準の創薬の実現と先進的事業モデルの構築を目指しており、実現のキードライバーの1つがデジタルトランスフォーメーション(DX)です。

DXのビジョンとして「デジタル技術によって中外製薬のビジネスを革新し、社会を変えるヘルスケアソリューションを提供するトップイノベーターになる」を掲げ、社員全員で共有しています。このビジョンの下に、「デジタルを活用した革新的な新薬創出」「全てのバリューチェーン効率化」「デジタル基盤の強化」という3つの基本戦略を掲げ、革新的なサービスの提供を目指しています。

DXは全社で進めること(DXの“全社ごと”化)が非常に重要です。そのため「トップのリーダーシップ」「明確なビジョンと戦略」「推進体制の確立」「人財強化・組織風土改革」「プロジェクト推進」の5つに重点的に取り組んでいます。将来的にはこれを発展させ、自社だけではなくパートナーとのコラボレーションなど様々なエコシステムを構築し、社会的な課題解決に貢献したいと考えています。

全社でのDXをさらに加速するため、2022年に新たにDXユニットを発足しました。ビジネス出身の中堅・若手を中心とした医薬・ITの混成プロ集団「デジタル推進戦略部」と、情報システム部門が中心となったITのプロ集団「ITソリューション部」から成り、各本部・ユニットとも連携して動いています。

デジタルを活用した革新的な新薬創出への取り組み

DXで最も重視している目標が革新的な新薬創出です。機械学習を用いた抗体創薬支援技術「MALEXA®」を自社開発し、従来の方法に比べて1800倍以上結合強度の高い抗体のアミノ酸配列の提案にも成功しました。また、画像解析、デジタルバイオマーカー活用などの分野でもそれぞれ成果が出ています。

2023年4月には、新たな研究所である「中外ライフサイエンスパーク横浜」が新薬創出の場として本格稼働します。ここでは、ロボティクス、ワークフロー、データ統合基盤などを提供し、研究開発のスピード化・効率化を推進します。

デジタル基盤強化

デジタル・IT基盤として、2020年に解析環境を提供するクラウド基盤「CSI(Chugai Scientific Infrastructure®)」を構築しました。クラウド化と自動化ツールなどの活用により、研究者に合った環境を低コストかつ迅速に構築できます。また、機密性の高いデータを取り扱うため、セキュリティも様々な工夫を凝らしています。SnowflakeなどDWHとの連携や最新のDWHのプロビジョニングも自動化しています。この環境は大量のデータをセキュアに収集・移管・共有可能で、社外とも連携が取れるので共同研究の基盤としても活用しています。現在、このCSIを全社のマルチクラウド基盤「CCI(Chugai Cloud Infrastructure)」に拡張しようとしています。

デジタル人財強化と風土改革

社内デジタル人財を体系的に強化するために、Chugai Digital Academy(CDA)を2020年に設立しました。CDAのコンテンツはスタッフから経営層まで各レイヤー向けに、デジタルの基礎から専門教育まで様々なプログラムを用意しています。

また、風土改革を狙い、DXに関するアイデアを形にするプロセスを包括的に支援する「Digital Innovation Lab(DIL)」も運営しています。デジタル化のアイデアを募り、採用されればPoC(Proof of Concept:概念の実証)を実施して、上手くいけば本番展開します。PoC費はDXユニットが支援しているので、予算を気にせずトライできるようになりました。DILでの知見・経験は社内で共有。DIL Awardとして優れた案件を表彰する制度もつくりました。2020年6月に募集を開始し、2021年末までに400件以上の応募があり、50件以上が審査を通過しPoCを実施。既に10件以上が本番開発に移行しています。また、DILは参加者の約9割が、変革意欲が向上したと回答しており、高く評価されており、風土改革の役目も担っています。

DILのアイデアを具現化するノウハウを蓄積し、可能なものは自社開発するための「tech工房」も設立しました。これにより、簡易なテスト環境などは自分たちで作成できるようになり、開発期間を約半分に、開発コストを約20分の1に抑制できています。

デジタルと社員をつなぐための様々な活動も実施しています。外部発信としては、コンテンツプラットフォームでの社員の声の発信(Note「CHUGAI DIGITAL」)、1000名以上が参加したオンラインイベント「CHUGAI DIGITAL DAY」などを実施しました。

社内では、デジタル企業の技術プレゼンテーションを全社に配信する「DigiTube」、各部門との連携のハブになるDXリーダーの設置、全社DX事例を共有する「デジタルサミット」などに取り組んでいます。

CTCはDILパートナーであるだけでなく、DILの前段階のアイデア創出のためのワークショップの運営、全社RPA推進支援などで協力いただいています。

まとめ

2020年から始めたDXの取り組みにより、これまで様々な基盤を築いてきました。2022年から2024年は、フェーズ2に入ります。これまでの取り組みを土台に、ビジネスを変えるところへとギアアップしていきたいと考えています。

データクラウド:データの力を結集し、ビジネスを変革する
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【特別講演】医療ビッグデータ事業のシステム開発 -次世代医療基盤法を活用した新事業創出-

浅倉 宏至 様

凸版印刷株式会社
事業開発本部
ヘルスケア事業推進センター
データマネジメント部
部長
浅倉 宏至 様

1900年に創業した凸版印刷は、120年を超える歴史があります。主力事業である印刷に代わる事業ポートフォリオの構築を目指しており、4つの成長領域を策定。その1つが健康・ライフサイエンスです。

凸版印刷は「こころ豊かで 満ち足りた くらしの実現に貢献する」ことを目指しており、この理念と合致することから健康・ライフサイエンス領域に取り組みはじめました。具体的には主に電子カルテデータを利活用して製薬会社・自治体に価値提供する「医療ビッグデータ」と、オンライン服薬指導から薬の宅配をする「オンライン薬局」の2つの事業を行っており、本日は医療ビッグデータ事業をご紹介します。

電子カルテデータの利活用

現在、市場に存在する医療データは診療報酬(レセプト)のデータが中心です。レセプトデータでは治療実績は分かりますが、治療結果までは分かりません。治療結果が含まれているのは電子カルテです。しかし電子カルテデータは規制によりデータ収集が極めて難しく、民間利用は進んでいません。そこで凸版印刷は、2018年に制定された次世代医療基盤法の認可を受けた3社のうちの1社である日本医師会系列のICI株式会社(以下、ICI)と業務提携し、電子カルテデータを取り扱えるポジションを獲得しました。

一般的にカルテデータを扱う際は医療機関ごとに匿名加工が必要で、複数の医療機関に通う個人は別人扱いとなります。一方、次世代医療基盤法の認定事業者は匿名加工前データを扱う事ができるため、名寄せにより同一人物を特定できます。

電子カルテデータだけでなく、自治体の健康診断データやレセプトデータ、介護データなども名寄せにより個人を特定して連携可能です。現在、ICIと事業開発を進めており、この取り組みには48の医療機関が賛同。電子カルテデータの収集を始めています。

この医療ビッグデータを活用し、まずニーズが明確な製薬会社、自治体、医療機関を対象としたサービスからスタート。次に健康増進を推進する生命保険会社、医療費削減や業務生産性向上が求められる企業健保、AIとの親和性が高い医療機器へのサービスを進めていきます。さらに介護業界、トクホ(特定保健用食品)や健康食品を取り扱う食品業界、ヘルスツーリズムを行う観光業など医療ビッグデータ事業には大きな広がりがあります。

凸版印刷の2万社以上に及ぶ顧客網を通じて、全業界のデータ収集や利活用を目指します。

製薬会社向け事業

製薬会社には、薬効証明のサポート、マーケティング高度化、アンメットメディカルニーズ(未だ有効な治療法がない疾患に対する医療ニーズ)に関する価値提供を目指しています。そのために、電子カルテデータには含まれないATC分類(医薬品の分類コード)、先発・後発情報などの医薬品情報や、データ提供元である医療機関の詳細情報などを付加して提供します。

また、電子カルテに含まれる検査値情報は、検査試薬や検査会社、医療機器によって基準値が異なるため、比較が難しいという課題があります。凸版印刷は、これらのデータを加工して、価値ある形に情報化した上でサービスを提供します。

具体的なサービスとして「入院時ペイシェントジャーニー」があります。これを使えば、具体的な製品の平均投与日数や患者の回復状況、他の医薬品からの切替率などを比較検討し、薬効の高い製品を特定できます。製薬会社は効果の高い医薬品の薬効を論文化することで、質の高い医薬品の普及につながり、ひいては医療の質が向上します。

凸版印刷では、製薬会社向けの電子カルテデータ分析ツール「DATuM IDEA」を開発。このプレスリリースは反響が多く、医療ビッグデータ事業への関心の高さを改めて実感しています。

自治体向け事業

自治体は医療費削減が急務ですが、削減の判断材料となるデータがありません。重要なデータに特定健診のデータがありますが、国保加入者の受診率は2020年度で33.7%と非常に低く、データ自体が不足しています。そのため、特定健診の受診率および特定保健指導の実施率向上が求められています。

凸版印刷では自治体からのリクエストに応じたデータ分析を通じて、ハイリスク群をリスト抽出します。例えば「糖尿病の重症化予防」機能では、自治体の健康診断データやレセプトデータから、糖尿病患者を地域、健診受診状況、糖尿病薬の処方有無などによりセグメント化して表示します。糖尿病の重症化リスクの高い住民の中から、特定健診が未受診かつ糖尿病治療を中断している住民を特定。手紙の郵送やテレコールなどの住民への直接的な勧奨・介入を実施し、限られた予算で効果的に、住民の重症化予防につなげる行動変容を促します。

自治体向けのデータ分析ツールも提供を開始しています。

医療ビッグデータ事業のシステム開発

今回のシステム開発は、新領域での事業開発であることから、リスク分散のためCTCを含めたマルチベンダー体制でスタートしました。しかし、自社のリソースに限らず、医療・ヘルスケアの知識を有するベンチャー企業も交えたトータルコーディネート力、課題解決の方針まで含めた形での提案型のコミュニケーションなどを評価し、徐々にCTCの担当分野が増加。現在はデータウェアハウス、データマート、データガバナンス、データセキュリティ、データクレンジング、データ情報化など開発の大部分をCTCが担っています。

まとめ

凸版印刷は電子カルテデータの活用により、生涯にわたる個人の健康や医療データをつなげ、解析することで健康長寿社会の形成に貢献していきます。これらを応用して、製薬会社、自治体をはじめ多様な業界に向けたサービスを提供し、将来的には誰もが健康を意識しなくても、生き生きと暮らせる社会を目指します。

後編では、「グリーントランスフォーメーション(GX)」、CTCアメリカ駐在員によるシリコンバレー発のDX最新動向、パネルディスカッションの内容をお伝えします。

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