製造業のデジタルツインとは? シミュレーション、メタバースとの違いと事例

 2023.07.03  2025.02.14

IoTやAIなどの先端技術が社会に浸透するにつれて、近年注目を集めているテクノロジーの一つがデジタルツインです。デジタルツインはさまざまな業界で有効活用できますが、特に製造業へ導入し、工場などにおいて製造DXを実現することが期待されています。これは多様なフェーズでの効率化やコスト削減、リスクの低減などに幅広く役立つためです。本記事では、デジタルツインの概要について触れたうえで、製造業にデジタルツインを導入するメリット、工場をはじめとする現場での導入事例などを紹介します。

製造業のデジタルツインとは? シミュレーション、メタバースとの違いと事例

デジタル化を推進すべき”23の領域” とは?

デジタルツインが製造業で注目を集める背景

デジタルツインが製造業で注目を集める背景

製造分野においてデジタルツインが注目されている背景には、IT技術の発展があります。IT技術によって現実空間をリアルタイムで仮想現実内に再現できるようになったため、この技術を製造現場に取り入れることで製造現場におけるイノベーションへの期待が高まりました。実際、AIやIoTなどによって膨大なデータを瞬時に収集できるようになり、仮想空間上でのシミュレーションはより現実に近い、精緻なものとなってきています。

現実空間では物理法則やコスト面から難しい実験でも、仮想空間では行うのが容易です。仮想空間において現実世界と同じような条件を設定し、繰り返しテストをすることで、試作コストの削減や製品開発の効率化などを実現できると考えられています。

少子高齢化で労働力が減少しているという社会的な流れもあり、生産性を確保するにはデジタル技術の戦略的活用(DX)による生産体制の変革が必要です。デジタルツインは、上記のような効率化を通じて生産性向上にも寄与します。

そもそもデジタルツインとは

デジタルツインとは、現実世界から集めたデータに基づいて仮想空間に同じ環境を再現する技術を指します。英語表記は「Digital Twin」で、「ツイン(双子)」とは仮想空間内へ現実空間と双子のようにそっくりな環境を再現するという意味合いです。

事例としては、IoTのセンシング技術で集めた製造ラインのデータを仮想空間に再現し、ARやVRを使って現実と同じような環境でシミュレーションするケースが挙げられます。

デジタルツインとよく似た語として、シミュレーションやメタバースがあります。それぞれの違いについて、詳しくは以下の参考記事をご覧ください。

参考記事:「デジタルツイン」とは?メリットや課題、活用事例をわかりやすく解説

Omniverseデジタルツイン事例
Omniverse紹介資料

デジタルツインを製造業に導入するメリット

デジタルツインを製造業に導入するメリット

製造業へのデジタルツインの導入には、以下のようなさまざまなメリットがあります。

  • 試作品作成の効率化・コスト削減 
  • 品質向上・リスクの軽減 
  • 製造オペレーションの効率化
  • 属人化防止・技術の継承 
  • 工場の予知保全の実現・ダウンタイムの軽減
  • AI画像処理の学習による作業の効率化
  • ROSとの連携による効率的なロボットシミュレーション

試作品作成の効率化・コスト削減

製造における一連のプロセスを仮想空間でシミュレーションすることで効率化し、製造コストや試作期間を大幅に削減できます。例えば、商品化に至るまでには、部品の仕入れや原材料の加工、試作品の作成、各種テストといった複数の工程が必要で、これらには原材料費や電気代、人件費などがかかります。しかし、デジタルツインの技術によって、そうしたさまざまなコストを費やさず、現実世界と同じ環境での試作が可能です。また、仮想空間での試作は現実で実際に作る場合のような時間はかからないため、試作期間も短縮できます。

品質向上・リスクの軽減

仮想空間での実験が可能になれば、容易にトライアル・アンド・エラーを行えるため、さまざまな条件下でテストできます。そしてデジタルツイン技術によるシミュレーションやテストにより開発された製品は、信頼性が高いとみなされます。これは現実をリアルタイムかつ精緻に反映した環境で試作ができるからです。また、現実世界ではなかなか起こらないような極端な条件でテストすれば、製品を発売する前に不具合を発見したりリコールなどの損失を避けたりもできるでしょう。試作品作成のプロセスが効率化してコスト削減が実現すれば、製品開発における投資リスクも最小化できます。

製造オペレーションの効率化

デジタルツインを活用すれば、遠隔地からでも工場の稼働状況などをリアルタイムで把握しながら作業指示が出せるようになり、オペレーションを効率化できます。これまで工場の現場監督者やスーパーバイザーは現場に行かなければならず、リモート勤務は仕事の性質上不可能とされていました。しかし、デジタルツインを活用することで遠隔で現場の監視や作業員への指示出し、アラート発生時の対応ができるようになります。また、監督者が自ら遠隔操作や制御を行うことも可能です。これらにより現場監督の移動時間を削減でき、確認もスムーズになります。

属人化防止・技術の継承

デジタルツインは、製造業にとって重大なリスクとなる属人化の防止と同時に、課題となりがちな技術の継承も実現可能です。遠隔地からの作業指示ができることで、高い技術を持つ作業員からの指示も受けやすくなり、「熟練工」や「匠の技」といった属人化していた技術も他の作業員へと継承されるようになります。また、リアルタイムで他の作業員に技術を継承できない場合でも、デジタルツイン上にデータ(記録)として技術を残すことが可能です。熟練工の指示や各作業員の作業内容など記録して蓄積すれば、貴重なノウハウや技術の継承はいっそう容易になります。

工場の予知保全の実現・ダウンタイムの軽減

デジタルツインによるモニタリングでは、リアルタイムで機器の稼働状況を把握するため、予知保全を実現できます。各種センサーとIoTデバイスやAIを組み合わせれば、24時間365日体制の完全なモニタリング体制が実現します。稼働を停止できない工場にとって、これは非常に大きな利点です。また、万一異常が出た場合にも遠隔地からその発見や原因究明ができます。監督者などが仮想空間で状況把握し、現場作業員に的確な指示を出すことで、突然の機器停止によるライン稼働率の低下を防げます。エラーを早期に発見できれば、機器の計画的なメンテナンスも可能です。

AI画像処理の学習による作業の効率化

近年、製造ラインにおいてAI画像認識技術を活用した外観検査や異常検知、さらにはロボットによる物体のトラッキングが行われるようになっています。しかし、特にもともと品質の高い日本の製造業においては、そもそもAIに学習させるための十分な不良品のデータを集めることは困難であり、不良品データを大量に集めるのはコストと時間がかかり、現実的ではありませんでした。一方で、デジタルツイン上ではAIの学習を行うためのデータをいくらでも生成できますので、より効率的にAIの学習作業を行えます。学習が進むにつれて、異常検知精度や信頼性は上がっていきます。また、まだ生産が始まっていない新製品の学習データもデジタルツイン上であれば、製品の設計データをベースに簡単に生成でき、生産が始まる前に精度の高いAIモデルも作成することが可能となります。

ROSとの連携による効率的なロボットシミュレーション

ROSとは、ロボット開発に用いるオープンソースのソフトウェアプラットフォームです。デジタルツインとROSを連携させれば、現実空間と仮想空間の両方にROSで制御されたロボットを配置でき、より効率的にシミュレーションを行えます。例えば、仮想空間と現実を連動させると、現実での実機側に障害物を用意しなくてもプログラムの挙動を確認できます。また、ROS通信に対応したセンサーやシステムを活用すれば、現実環境のセンシングデータを仮想空間上に再現することが可能です。

デジタルツインを導入した製造業の事例

デジタルツインを導入した製造業の事例

デジタルツインは、工場など製造業の現場でどのように活用されているのでしょうか。以下では、デジタルツインを導入した製造業の事例を4つ紹介します。

自社工場の再現による一元管理を実現

ある大手総合電機メーカーは、デジタルツインの先進モデルともいえる3D未来工場を推進しています。実際の工場の設備や機器のデータからデジタルツイン工場を再現し、生産機器の状態や生産ラインの稼働状況などを一元的に把握・管理できるようにしました。この技術により、機器メンテナンスのリモート化などが可能になりました。また、デジタルツイン上で自社の各工場を横断的に分析することで、優れている工場や部門の特定も容易になり、他工場や他部門の生産性向上にも役立てられています。

施工プロセスの最適化

大手建設機器メーカーでは、建機やIoTデバイスによって収集したデータから、3Dでシミュレーションできる環境を整えています。調査・測量から施工管理・検査に至るまでのステップがデジタル化されて、建設現場の全行程のモニタリングがリアルタイムで行えるようになりました。このデジタルツインによる施工で効率化が図られています。オペレータの能力や経験に左右されない次世代型の現場管理により、現場の安全性や効率性の向上も実現しました。

リモートでの技術指導の実現

大手総合化学メーカーでは、水素製造プラントにおける技術指導のリモート化にデジタルツインを活用しています。従来は、プラントの運用やトラブル対応には熟練した技術者の現場配置が必要でした。そこで各プラントをデジタルツイン化し、オンラインで現場の様子を細かく確認できるようにしました。限られたベテラン技術者が、どこからでも現場作業員の手元を見ながら指示を出せるため、技術伝承が効率化されています。将来的には、海外のプラントの操業をリモートで日本からサポートすることも視野に入れているといいます。

予知保全・生産の強化

大手空調総合メーカーは、工場の保守にデジタルツインを導入しています。デジタルツイン機能を搭載した生産システムを開発し、そのデータをもとに製造設備や組み立て作業などの生産工程の状況を仮想空間上へと再現する形です。各工場のデータを収集・分析することで、高い精度で不具合の予知・予測ができるようになり、安定した操業が可能になりました。また、設備の不具合のみならず、作業員による作業の遅れも予知し、二重に保全に役立てています。こうした取り組みでエラーを迅速に解決して、作業停滞による生産ロスも削減できています。

デジタルツインを製造業に導入する際の課題

デジタルツインを製造業に導入する際の課題

デジタルツインの障壁の一つが、IT人材の不足です。デジタルツインを活用するには、IT知識を有する熟練した人材を確保しなければなりません。近年は多くの業界でIT人材の需要が高まっており、人材の争奪戦が激化しています。社内でIT人材の育成を目指しても、時間とコストがかかることがネックになっています。

加えて、デジタルツインの導入にかかるコストも課題の一つです。デジタルツインはIoTやAIなどの最先端テクノロジーと掛け合わせて活用するため、ITインフラの構築には多額の初期費用を要します。投資コストを踏まえ、何をどのように導入するかを検討しなければなりません。

デジタルツインで活用されている主な技術

デジタルツインで活用されている主な技術

デジタルツインは、IoT、AI、AR、VR、5G、CAEなどの技術を組み合わせて構成されています。それぞれの技術がデジタルツインを実現させるためにどのような役割を果たしているのかを説明します。

IoT

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)とは、インターネットを介して情報機器や家電製品などの「モノ」を相互に接続する技術のことです。デジタルツインでは現実世界の高精度かつ膨大なデータを必要とするため、IoTのセンシング技術による情報収集が不可欠です。

AI

AI(Artificial Intelligence:人工知能)はIoTで得た膨大な情報をスピーディに分析・予測することに用いられます。

AR・VR・MR

AR(Augmented Reality:拡張現実)・VR(Virtual Reality:仮想現実)・MR(Mixed Reality:複合現実)は、現実世界を再現・可視化する役割を担います。ARは現実世界の一部にデジタル情報を付与する技術で、VRはデジタル空間で現実世界を再現する技術です。MRはARとVRを組み合わせたもので、仮想空間のオブジェクトを現実空間へ立体的に映し出す技術です。特殊なデバイスを使用することで、視覚だけではなく触覚にもフィードバックを送れ、疑似触覚体験ができます。

5G

「5G」とは第5世代移動通信システムのことであり、高速、大容量、低遅延のデータ通信を実現します。現実世界の膨大な情報をリアルタイムに仮想世界へと反映するための不可欠な技術です。

CAE

CAE(Computer Aided Engineering)は、コンピュータでシミュレーションを実施する技術です。CAE自体は、製品設計や開発などの事前シミュレーションで以前から活用されているテクノロジーです。近年はIoTや情報技術が普及したため、仮想空間上でより実態に近いシミュレーションをリアルタイムで行えるようになりました。ただし、仮想空間でシミュレーションを行うには高度な技術が必要とされるため、今後はCAE設計者のさらなる技術力向上が期待されています。

「NVIDIA Omniverse」でのデジタルツインの実現

「NVIDIA Omniverse」でのデジタルツインの実現

NVIDIA Omniverseは、仮想空間上でリアルタイムシミュレーションができるオープンプラットフォームです。チームの人数に応じて拡張が可能で、複数のツールを連携させてコラボレーションやシミュレーションができます。共有仮想空間上でツールやプロジェクトを連携させれば、クリエイター、デザイナー、エンジニアリングのワークフローが円滑化され、生産性の向上が期待できます。

例えば、これまで複数のデザイナーによるコラボレーションをする際は、データを適切な形式でエクスポートした後、それをインポートして作業を継続するのが一般的でした。しかし、Omniverse USD Composerというアプリを使うことで、リアルタイムでの同時編集や大人数での共同作業が可能になりました。元データを上書きすることなく、非破壊編集もできるようになっています。

また、NVIDIA Omniverseは自動車工場で安全性を考慮しながらラインの最適化をするときにも便利です。ある自動車メーカーは、工場の環境を仮想空間上に再現して、新しい生産ラインのテストをしました。仮想空間内でモーションキャプチャスーツを着た作業員の動きを記録することで、安全性やエルゴノミクスを考慮しながらラインを最適化するのに役立っています。さらに、NVIDIA Omniverseではロボットのトレーニングを行ったり、最適な工場レイアウトを探したりすることも可能です。

まとめ

まとめ

IoTやAI、ARなどの技術で構成されるデジタルツインは、製造DXの実現に欠かせない要素です。デジタルツインを活用すれば、試作コストの削減や製品開発の効率化に加えて、人材育成の合理化や技術継承の円滑化などまで実現できます。

CTC Omniverseデジタルツイン構築サービスは、「新製品の生産開始前にシミュレーションをしたい」「工場から取得したIoTデータを3D空間上に可視化したい」といったさまざまなニーズに応えています。導入時には導入支援サービスやワークショップがあり、必要なデジタルツイン構築要素を整理できるので、不要な機能にコストを割く心配もありません。最先端テクノロジーのデジタルツインを活用して、製造DXを推進することで製造業の経営改革を進めていきましょう。

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