デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組む
エンタープライズ企業の成功と挫折の現状

 2022.03.23  デジタルビジネスシェルパ

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2021年11月に調査会社のIDC Japanが発表した「デジタルトランスフォーメーション動向調査 国内と世界の比較結果」によれば、国内企業と世界の企業には、デジタルレジリエンシー(デジタルによるビジネスの回復のみならず成長する能力)への理解度に、本質的な違いがあると指摘されています。

なぜ、国内でデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に取り組むエンタープライズ企業には、成功例が少なくて挫折が多いのでしょうか。

エンタープライズ企業のDX推進を強力にサポートしてきた稲吉氏と神原氏が、その課題と対策について対談しました。

登壇者プロフィール

稲吉さん伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 稲吉 英宗
1994年伊藤忠テクノサイエンス株式会社(当時)入社。CTCが取り扱う製品・サービスの調査選定から提案・コンサルティング・導入支援に従事。
大手自動車メーカーにて製品だけでなく多岐にわたるプロジェクト支援に従事後、企業のDX推進を支援。社外セミナーなどで多数講演を実施。
神原さん伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 神原 宏行
伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 2003 年中途入社。大手電機メーカーのアカウント SE を担当し、2006 年より全社横断組織にて様々なソリューションやサービスの開発に携わる。2019 年より顧客の「攻めの DX」を支援する新事業立上げを担うbuild service責任者として、現在に至る。

DX二周目に突入した企業が抱える課題

稲吉氏
日本では、エンタープライズ企業のDXが遅れているという指摘もありますが、すでにDX推進室を立ち上げて、イノベーションラボを準備したり、デザイン思考の研修を実践されたりして、積極的にDXが推進されている事例も出てきています。ところが、そうした先進的な企業でも、立ち上げの期間を終えて、DX推進の二周目に突入すると、課題を抱えるケースもあります。こうした状況をどのようにとらえているのでしょうか。

 

神原氏
DXには、大きく「攻め」と「守り」の二つのテーマがあります。両利きの経営とも言われていますが、そのバランスをどうすべきか見極めが重要になっていくと思います。

 

稲吉氏
我々が提唱しているデジタルシフト(DIGITAL SHIFT)モデルシフト(MODEL SHIFT)の違いですね。

「デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むエンタープライズ企業の成功と挫折の現状」

神原氏
日本の企業は、製造業が多いということもありB to Bのビジネスが多いと思います。その先に消費者やエンドユーザというお客様がいるのですが、そのB to B to Xにあたる顧客企業の先にいる最終的なお客様まで見据えて、その課題やニーズに応えるモデルシフトを実践しているDX部門は少ないと思います。どうしても、既存ビジネスモデルにおける目の前の課題を解決しようと動いてしまいます。一周目のDXでは、どちらかというと守りのDXにあたるデジタルシフトが優先されます。それが一段落して成果が出てくると、攻めのDXとなるモデルシフトが求められます。

 

稲吉氏
そこで、DXの難易度が高くなるわけですね。

 

神原氏
はい。DXに求められる成果として、既存のビジネスを維持しながら、その内容を変えようとしたり、今の顧客からお金をもらい続けながら、提供物を変えて収益の構造を改善する、といった要求が高くなります。そこで重要となるのが、DXによるモデルシフトです。しかし、それがうまく機能していないので、二周目で壁に突き当たる例が多いのだと思います。

 

稲吉氏
それはDX部門を創設しても機能していないという意味でしょうか。

 

神原氏
いえ、きちんと機能するDX部門を整備しても、どうしても守りのDXに引きずられてしまう、という課題もあります。ある大手企業では、体制の構築と社内への啓もう活動などを積極的に推進されて、数多くのDX案件が立ち上がったと聞いています。ただ、その多くが守りのDXにあたる案件が多く、成果もそちらの方が顕著に現れるので、どうしてもデジタルシフトが中心になる傾向があるようです。

DXの壁を打破するために求められるものとは

稲吉氏
二周目のDXを推進している企業でも苦労されている面があるようですが、そうした壁をどのように打破していけばいいのでしょうか。

 

神原氏
変革に向けた王道は、ミッションと組織作りです。ミッションは、やはり経営者の考え方が重要になるでしょう。過去において成功していた既存のビジネスモデルにとらわれすぎて、攻めのDXに向けた明確なビジョンやミッションを示せない、というケースがよくあります。

経営層に攻めのDXの重要さを意識してもらうために、私は「ユーザ体験(UX)の理解と解決がビジネスに大きく影響する。」と提唱しています。あらゆる利用シーンを理解したうえで、複雑化するユーザ体験全体をデザインする、というUXデザインの重要性が高まっています。実際に、成功している商品やサービスは優れたユーザ体験価値と結びついています。

 

稲吉氏
もうひとつの組織作りとは、どのような取り組みになるのでしょうか。

 

神原氏
組織作りは人材です。その人材にも、二つの素養が求められます。DXのためのデジタルに関連した知識と、事業変革に取り組むマインドです。エンタープライズ企業で働く人材の多くは、事業変革をリードした経験が少ないので、デジタルを理解しつつ変革を推進するマインドもある人材の発掘や育成が重要になってきます。

エンタープライズ企業ならではのDX推進に横たわる課題とは

稲吉氏
人材の重要性は、私もDX推進に取り組まれてきた企業の事例から、とてもよくわかります。ただ、一方で安定したエンタープライズ企業の中堅社員へのアンケートによれば、「DXって面倒くさい」とか「自分には関係ないだろう」とかあまり積極的ではない意見が多いと聞きます。エンタープライズ企業ではスタートアップ企業に比べると、現場ではDXにも新規事業にも消極的な人材が多いのではないかと感じられます。

 

神原氏
必ずしも「消極的」ということではなくて、そもそも「既存事業を続けながら、同時に新しいことをやる」こと自体が非常に難しいことなのだと思います。

私が経験した例で、ある大手企業での現場と事業責任者クラスの間に次のような意識の違いがありました。ワークショップを開催して事業の将来像についてディスカッションしたところ、現場で働く人たちからは、自分たちのスキルを活かした新しい顧客サービスにつながるアイデアが数多く出てきました。その一方で、事業責任者クラスがDXに求めていたのは、業務の効率化や省力化といった日々の業務における目の前の課題解決であり、目の前の課題をまず解決することが優先で、それができた後で将来に向けた事業そのものの変革を進めるべきという考え方でした。

 

稲吉氏
たしかに私が経験している例でも現場の方で現状にとどまらず、新たなことや日々のビジネス改善を進めていこうとしている人は数多くいます。

新たな顧客サービスと業務の効率化のどちらも重要なDXだと思うのですが。

 

神原氏
別の見方をすると「企業内において変革を推進する際には、確固たる意思があるかどうかが重要である」という面もあると思います。

以下は新規事業の話ですが、「アントレプレナー(起業家)」と「イントレプレナー(企業内起業家)」の違いというのがあって、自らやりたいことがあって起業するアントレプレナーは、資金調達などの課題がありますが、「意思」の有無が顕在的な問題になることはあまりない。一方、イントレプレナーは、社内のステークホルダーを説得し組織の中で事業を推進していくために「意思」が重要になります。

 

稲吉氏
イントレプレナーのような「意思」を持った人材を登用するとなると、さらに壁は高くなりませんか。エンタープライズ企業がイントレプレナーとしての要素を持っているひとを発見できるのでしょうか。

 

神原氏

優れたイントレプレナーを発掘するためには、株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長で、「リーダー人財育成」の使命に取り組んでいる新 将命氏の分類する5つのビジネスパーソンが参考になります。(*2)

新氏は、5つのパターンを図のように分類しています。

「デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むエンタープライズ企業の成功と挫折の現状」

 

この5つのタイプから、DX推進のためには「自燃型」の人材を見出すべきだと考えます。DXによるモデルシフトを実現できるかどうかは、中央の可燃型の人材に対して、影響力をもたらす自燃型の人材をDX推進に登用できるかどうかです。大企業の中にも、その会社の特徴やビジネスモデルを活かして、社会課題を解決しようとか、自らの「好き」という想いを新規事業に結び付けたいと考えている社員はいます。そうした自燃型人材をベースに、その会社のアセットを投入していく組織作りが、成功の鍵となります。

(*2 新 将命氏の記事 https://toyokeizai.net/articles/-/10447)

 

稲吉氏
経営層の意識改革から、自燃型人材を発掘した組織作りまで、それらをすべてエンタープライズ企業の中だけで実現することは非常に難しいと思います。どのようなサポートが必要だと思われますか?

 

神原氏
エンタープライズ企業には、豊富な人材がいるので、不可能ではないと思います。ただ、短期間でデジタルとイントレプレナーの素養を持った人材を見出していくためには、DXをテクノロジーとメソッドの両面でサポートする伴走者のようなITパートナーの存在が、不可欠だと思います。私たちは、そうしたお手伝いを数多く手がけてきました。その知識と経験が、DXに取り組むエンタープライズ企業の成功をサポートできると思います。

まとめ

エンタープライズ企業におけるDXの現在の状況は、守りのDX推進が中心で、二周目に求められる攻めのDXを実践している例は少ないと思われます。その課題は、やはり経営者の意識と現場の人材にかかっているのではないでしょうか。

次回は、これらの課題を解決していく上で重要な人材育成について、最新の状況や取り組むべき施策などについて、対談していきたいと思います。

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