Facebookの社名変更などで大きく注目を集めているのが「メタバース」です。メタバースの概要と注目を集める理由、その活用例、メタバース市場を狙う世界・国内企業の動き、メタバース市場の今後について解説します。メタバース市場を開拓しつつある各企業の事例も紹介しますので、市場参入を検討される際の参考にしてください。
メタバースとは?
メタバースは超越するという意味の「メタ(meta)」と、宇宙を意味する「ユニバース(universe)」を組み合わせた造語です。メタバースはインターネットにアクセスし、共有できる3次元の仮想空間の総称を表します。メタバースで表される仮想空間は幅広い意味で使われます。例えばVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)などの技術で体験できる、より現実世界に近い仮想のデジタル空間を指す場合です。
3Dのコンピュータグラフィック技術も長年にわたって進化を続け、現在の映画作品やオンラインゲームでは、臨場感のあるフィクションの世界をデジタルな仮想空間の中で体験できるようになりました。特に、ゲームの世界でメタバースの言葉はよく知られ、ユーザーはゲーム用のキャラクターを持ち、現実世界のように歩き回ったり、他のキャラクターと交流したりという楽しみ方もできます。
メタバースはインターネットの進化系であり、宇宙を超越するという意味にあるように、壮大な仮想空間です。現在、まだその標準規格がないため、多くの企業が他社に先駆けてメタバースの未来のプラットフォームを作ろうとしのぎを削っています。大手企業だけでなく、中小企業も先行者利益を得ようと、様々なプロジェクトで参入を図っています。
メタバースが注目を集める理由
メタバースという言葉自体は1992年に発表されたSF小説に由来し、作品の中で架空の仮想空間サービスと紹介されています。メタバースを使った実際のサービスは約20年の歴史を持つゲームプラットフォームが先駆けです。これまでもVRやAR、MRなどの技術をリアルな世界に適用する試みは続いていました。過去にも仮想空間がブームになることはありましたが、現在、メタバースが注目を集めているのは、主に3つの変化による影響があるからです。
- VRヘッドセットの進化
初期のVR用ヘッドセットはかなり重量があり、装着しづらく、3Dのコンピュータグラフィック技術で表現する仮想空間も高品質ではありませんでした。近年のヘッドセットは軽量化され、ワイヤレスで使えるなど装着がより手軽になっています。アバターの顔の表情や身振り手振りなどの表現力が増し、よりリアルなコミュニケーションが行えるようになりました。VR技術を使ったコンテンツやサービスの質の向上は、メタバースへの注目を高めています。 - NFTブーム
NFT(Non-Fungible Token)は非代替性トークンと呼ばれます。偽造や複製が不可能な鑑定書付きのデジタル資産で、暗号資産と同じようにブロックチェーン上で流通しています。暗号資産との違いはコンテンツやデジタルデータ全般に応用できる点です。NFTが登場する前は、デジタルデータはコピーや改ざんが簡単に行われるおそれがあり、コンテンツやデータに所有権がありませんでした。NFTの登場により、所有権が明確になりコピーや改ざんもできなくなったので、安全な所有や売買が可能になりました。そのため、2021年にはNFTブームが起きています。今後はNFTとメタバースの組み合わせで、仮想空間の経済活動が大規模に行えるのではと期待されています。 - 新型コロナウイルス
世界的に流行した新型コロナウイルスにより職場や学校がリモート化し、人々の外出制限もあり、コミュニケーション手法のデジタル化が加速しました。Zoomや チャットなどの会議アプリやツールを使用する機会が増え、メタバースによるリアルに近いコミュニケーション手法が注目されているのです。メタバースを使用すれば、会場に人を集めなくてもイベントを開催したり、セミナーや商談などビジネスコミュニケーションを増やしたりできます。
メタバースの活用例
現在、実際にメタバースを活用している事例やサービスについてご紹介します。
オンラインゲーム
もっともメタバースの活用が進んでいるのがオンラインゲーム業界です。家庭用PCやゲーム機器の性能が向上し、コンピュータグラフィックで表現できる世界観のスケールが拡大すると同時に精密になりました。インターネット回線の大容量化・安定化によりゲームの参加人数を増やせるようになったので、再び人気を集めています。価格が安いHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の登場でオンラインゲームがより身近になりました。
メタバースを活用した人気のあるゲームは「フォートナイト(Fortnite)」や「あつまれ動物の森」、「マインクラフト(Minecraft)」などです。フォートナイトはEpic Gamesが配信するバトルロイヤルゲームで、多くの若者が利用しています。プレーヤー同士でコミュニケーションを取り、仮想空間の資材を使って敵からの攻撃を防御し、最後の1組になるまで戦うサバイバルゲームです。仲間同士が集まるSNS的空間があるのが大きな特徴で、メタバースの重要な要素を備えています。
あつまれ動物の森は任天堂のNintendo Switchで発売され、大人気となりました。ユーザーはアバターとして動物や他のアバターと交流を楽しみながら、無人島の自由な生活を満喫します。仮想空間上で野菜を育てたり、家具や道具をDIYしたり、お金を稼いだり、リアルな生活の要素が詰まっています。アバターの着せ替え用に有名ブランドがデザインを公開するなど、企業とのコラボが進んでいるのも特徴です。
マインクラフトはマイクロソフトの子会社が提供するオンラインゲームです。仮想空間で土や鉱石、溶岩などの立体ブロックを使用し、道具や建物を作り、自由に好きな空間を構築できます。他のユーザーと協力したり、競い合ったり、アバターのコスチュームを変更するなど様々な楽しみ方があります。今後はブロックチェーン技術を導入し、ゲームアイテムの売買も予定しているようです。
バーチャルオフィス
新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって、ICT技術を利用したテレワークが一気に広がり、新しい働き方として浸透しました。さらに、テレワークにおけるメタバース利用も視野に入ってきています。その代表例がバーチャルオフィスです。社員がオンライン上の仮想空間に作ったオフィスに集まり、会議をしたり、一緒に作業をしたりできます。バーチャルオフィスでは在宅中の社員がVR機器を装着し、仮想空間に再現された会議室に自分の分身のアバターで参加します。
上司や同僚と実際に同席しているような感覚で打ち合わせが可能です。VR機器の向きを変えたり、コントローラーを操作したりすると、アバターの動作に反映できます。また、アバターで参加するので、自宅の部屋が散らかっていても気にする必要がありません。バーチャルオフィスを活用する技術は日々進化し、アメリカでは3D技術を使用して遠隔地の人や物を目の前に再現する試みが始まっています。
日本でもアメリカ発の仮想空間サービスの販売代理店として活躍している企業があり、自社の業務や会議などを仮想空間の中のアバターで行っています。Zoomのように顔出しせず、アバターを使って作業を行います。Zoomより直観的なコミュニケーションが可能で、ストレスも少ないため、企業だけでなく学術教育や医療関係からも関心を集めています。日本でアバターを活用したバーチャルオフィスを使って会議を行う日はそう遠くない未来かもしれません。
バーチャルイベント
メタバースの活用例として最近注目されているのが、バーチャルイベントです。これまでのイベント開催では場所や施設の収容人数などの制約がありました。オンラインの仮想空間でイベントを開催すれば、国内だけでなく海外からも参加できます。イベント1回当たりの参加人数も、サーバーのスペックによっては増やすことが可能です。
ライブや演劇、ミュージカルなどのエンターテイメント関連の他、企業が商品やサービスをPRするビジネス展示会など国内でも多数のバーチャルイベントが開催されています。2021年にメタバース上で開催されたバーチャルマーケット2021には、コンビニなどの小売や流通業界、証券などの金融業界、TV・出版などのメディア業界と様々な業種の企業が多数出展しました。このイベントはバーチャルリアリティマーケットイベントの出展ブース最多記録としてギネス世界記録に認定されています。
県民と地元のプロスポーツを、メタバースを活用して応援するプロジェクト事業もあります。バーチャルワールド広島は地元のスポーツファンがアバターとなり、仮想空間で同じ感動を同時に味わい、共感・シェアする仮想プラットフォームです。野球やサッカーなど地元のプロスポーツチームの専用ルームで、限定オリジナル動画コンテンツや応援アイテムの体験、他のファンとのチャット交流も楽しめます。
参照元URL:
株式会社HIKKY「メタバース上で開催される世界最大のVRイベント『バーチャルマーケット2021』会場&出展企業第1弾を発表!!」
広島県「デジタル技術を活用して,プロスポーツの新たな応援スタイルを構築します!」
ビジネスプラットフォーム
メタバースをビジネスの新たなプラットフォームとして構築し、新しい市場を開拓する動きもあります。企業がメタバースビジネスに参入する場合の選択肢は、メタバースのプラットフォーム上でプレーヤーとして参加する方法、またはプラットフォームを構築・運営するプラットフォーマーとなる方法の2つです。プレーヤーは参入しやすく、低コストで新たなビジネスの実証実験をすることが可能ですが、利益はある程度限られます。プラットフォーマーで参入すれば、構築や運営の負担、コストもかかりますが、ユーザーの膨大なデータを蓄積し、多方面のビジネス展開が可能になり、利益も増やせます。
プラットフォーマーの例では、スマートフォン向け仮想都市空間を立ち上げた大手百貨店が、専用アプリを利用すれば、ユーザーが自身のアバターで入店できるバーチャルサービスを始めました。売り場を再現した仮想店内では実際に3Dスキャンした店員が来店客を迎え、ショッピングや店員とのコミュニケーションも楽しめます。実際の店舗で販売している商品を3Dスキャンし、商品を購入したいときはECサイトから実物の購入が可能です。仮想店内では他のアバターとの交流や友達申請もできます。デートの待ち合わせも可能でSNSのVR型としてメタバースを先取りしています。
メタバース市場を狙う世界・国内企業の動き
プライベートやビジネスシーンに活用できるメタバース事業には既に多くの企業が投資し、参入を進めています。特に代表的な企業の例をご紹介します。
Facebookが社名を「meta(メタ)」に変更したのは、現在、同社が提供しているサービスやアプリ全体を、SNSのブランド名称だけでは表現できないという判断からでした。今後の事業は次世代のプラットフォームになるとされる、「メタバース」の構築に比重を置き、社運をかけていることを示しています。同社は今のようにメタバースの概念が普及する以前に、VRやARのハードウェア開発に多大な投資をしてきました。
低価格のVRデバイスを実現し、現実世界を3Dマップ化するプロジェクト用にARデバイスを発表しました。XR(クロスリアリティ)の相互作用に有効なハードウェアとして、リストハンド型コントローラーの実現に取り組んでいます。メタバース体験を充実させるため、世界各地の優秀なスタジオに投資し、買収も行っています。自社ブランドのhorizonシリーズはメタバース上の自宅であるHomeを中心に、ビジネスに対応するWorkrooms、イベントやスポーツ観戦を楽しめるVenues、ユーザー同士でソーシャルアクティビティを楽しむWorldsなどラインナップが多彩です。
Epic Games
オンラインゲームで世界的人気を誇るフォートナイトを運営するEpic Gamesは、2021年末にメガバースという名称を商標登録しました。長期的なメタバース事業推進を見据え、投資パートナー企業から10億ドルの資金調達を行っています。今後は1つのゲーム世界に留まらず、自社が開発した業界スタンダードのゲームエンジン、Unreal Engineやオンラインサービスを利用し、統合されたゲーム世界の構築を目指すと見られています。
Epic Gamesはゲーム開発事業の他、ゲームストア運営やゲームエンジン開発の事業も行うプラットフォーム企業でもあり、メタバース覇権を握る最有力候補の呼び声が高いです。デジタルヒューマンを簡単に作成するアプリを発表したり、3Dコンテンツ共有プラットフォームを買収したりするなど、3DやAR、VRコンテンツを利用しやすい形にしてメタバースの利用推進につなげる動きが加速しそうです。同社は、AppleやGoogleストアのアプリ配信手数料に対する訴訟問題でも注目されています。
マイクロソフト
マイクロソフトは、ゲームブランド大手アクティビジョン・ブリザードを690億ドル(約8兆円)規模で買収することを発表し、テック業界に衝撃を与えました。買収規模は同社の創業以来最大のもので、買収が完了すると世界第3位のゲームブランドが出現します。今回の買収により、マイクロソフトのゲーム部門の基盤ができると同時に、メタバース参戦を見据えた足がかりとなります。
また、2022年リリース予定のMesh for Microsoft Teamsは、離れた場所にいる人々が、MR機能の利用、バーチャル会議の参加、チャットのやり取り、ドキュメント共有を可能にし、ホログラフィック体験を通して共同作業に参加することが可能です。メタバース体験と既存のTeamsの生産性ツールを融合しています。
KDDI
KDDIはau版メタバースまたは都市連動型メタバースという名称で、バーチャル空間と現実世界の連動に力を入れています。現在のメタバースに多い、オンライン上に閉じた体験ではなく、実際の生活空間を核にし、新たに拡張していくライフデザインに取り組んでいます。例えばバーチャル渋谷でのハロウィーンフェスでは、自分をスキャンしたリアルなアバターを採用しました。
リアルなカラオケボックスとバーチャル空間をつなぐバーチャルカラオケLIVEや、バーチャル空間の道案内をするアバターのアルバイトの仕事募集なども実現しています。KDDIはバーチャル渋谷の他、バーチャル大阪も本格展開しています。今後は実在都市とバーチャル空間が連動するバーチャルシティの利活用を展開していくにあたって、ガイドラインの作成や情報発信に取り組む予定です。
NIKE
世界的スポーツメーカーNIKEは、消費者に直接販売するD2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)の次世代の開拓者であると自らを位置づけ、バーチャル店舗&メタバースの取り組みを進めています。NIKEファンが3Dのバーチャル空間でつながり、コンテンツを作成し、一緒に体験できるNIKELANDをオンラインプラットフォーム内に開設しました。
ユーザーは3Dアバターを操作し、バスケットボールやテニスコート、陸上競技場などで友達とスポーツやミニゲームなどを楽しめます。アバターはNIKEブランドのアイテムを着用し、エアフォースワンやエアマックス2021などのフットウェアを試すことも可能です。
メタバース市場の今後
メタバースの世界的な市場規模は8,000億~1兆ドルになると予測されています。主にオンラインゲームメーカーとハードウェアが市場の約半分を占め、その他をソーシャルネットワークメディアとライブエンターテイメントが占めると思われます。
現在はEpic Gamesやマイクロソフトのゲーム事業が好調で、メタバース市場をリードしていますが、他の企業もメタバースのビジネスモデルを通じて、成長する市場から利益を得ることは可能です。今後は仮想空間上の商取引に関する法整備とガイドラインの策定、VR機器の普及、キラーコンテンツの開発などが課題となるでしょう。
まとめ
オンラインの仮想空間で様々な体験が楽しめるメタバースは、インターネットの進化系として、ビジネスやショッピング、エンターテイメントなどの在り方を変える可能性があります。今後も市場の成長が見込まれ、国外・国内の有名企業が参入を進めています。メタバースの商取引に関する法整備やガイドライン策定、VR機器の普及、決め手となるコンテンツの充実などがこれからの課題です。
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