インダストリアルメタバースとは?
利点やビジネスへの活用例を紹介

 2023.10.23  デジタルビジネスシェルパ

メタバースは従来、ゲームなどのエンターテインメント分野を中心に活用されてきましたが、ビジネスツールとしても広大な可能性が広がっています。その一例が、製造業の製品開発や予知保全などで活用が期待されるインダストリアルメタバースです。本記事では、インダストリアルメタバースとは何か、その特徴や利点について詳しく解説します。

インダストリアルメタバースとは? 利点やビジネスへの活用例を紹介

インダストリアルメタバースとは?

そもそもメタバースとは、複数のユーザーがアバターを使って動き回れるインターネット上の3D仮想空間です。メタバースの世界には様々な活用領域が存在します。例えば、一般によく知られているソーシャルメタバースは、アバターを利用して仮想空間でのコミュニケーションやゲームを楽しむ、エンターテインメント分野で活用されるメタバース空間です。

これに対して、インダストリアルメタバースとは、現実世界をデジタル上で忠実に再現するデジタルツインと呼ばれる技術で構築されたメタバース空間を意味します。インダストリアルメタバースは、シミュレーションやデザイン設計、AI機械学習など、ビジネス領域での活用シーンが想定される産業用のメタバース空間です。

インダストリアルメタバースでは、工場や倉庫、店舗や農場、医療機関などの事業における産業用アプリケーション向けの利用が想定されます。インダストリアルメタバースを活用することで、物理的な距離や時間の制約を超えて、効率的な業務やトレーニングが実現可能です。

また、インダストリアルメタバースの可能性を広げる技術としては、ロボットシミュレーションや合成データ生成が挙げられます。AIロボットを使った高精度なシミュレーションによって、仮想環境でも現実に近い検証が可能です。合成データとは、コンピュータがアルゴリズムによって生成する仮想的なデータで、AIモデルの学習に必要なデータ取得が困難な場合にデータギャップの解消を期待できます。インダストリアルメタバースとこれらの技術を組み合わせることによって、全体のコスト削減も実現可能です。

インダストリアルメタバースは、コンシューマーメタバースやコマーシャルメタバースと並び、メタバースの重要領域として注目されています。

デジタルツインとの違い

デジタルツインとは、その名の通り、現実世界の物理的な事物や環境データをリアルタイムで収集・モデル化し、デジタル上で双子のように忠実に再現する技術です。これによって、現実世界と同じ環境条件を整えつつ、現実世界で実際に行うのは難しい多種多様な実験などをすることが可能になります。

インダストリアルメタバースは、このデジタルツインの技術を基盤としつつ、さらにメタバース技術を取り入れている点が違いです。つまり、インダストリアルメタバースでは、デジタルツインで現実世界を再現した仮想空間にユーザー自らも入り込めることに特徴があります。VR(仮想現実)やMR(複合現実)などのXR技術も併用することで、現実と近い感覚でその世界を体験・共有することが可能です。

そのため、インダストリアルメタバースはデジタルツインをさらに発展・応用させたものと捉えられます。

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インダストリアルメタバースの利点

高精度の検討による品質の向上

インダストリアルメタバースの導入をすることで、仮想空間上で製品のデザインや機能を目視しながらの検討が可能となります。これによって、サイズ感なども実感しやすくなり、実物を使った場合に近い高精度な検討が行えるため、品質の向上が可能です。また、検討した結果を迅速に現物へ反映しやすくなるので、製品の改善サイクルを高速化できます。

製造過程におけるコストダウン

伝統的な製造プロセスでは、新しい製品を試作する際には多数のプロトタイプの作成が必要で、これには大きなコストと時間がかかっていました。しかし、インダストリアルメタバースを導入すれば、メタバース空間内で試作品をデジタル上で再現することが可能になります。これによって、プロトタイプの制作や生産ラインの試運転にかかる時間やコストを大幅に削減可能です。結果として、製造コスト全体の削減につながります。

トラブルの回避

トラブルの未然防止と迅速な解決が可能になることも大きなメリットです。仮想空間では、過去、現在、未来の動作状態を一元的に把握できます。これによって、物理的に離れた拠点や機器のトラブル原因を特定し、速やかに解決策を施行可能です。さらに、メタバース空間は複数の拠点で同時的かつリアルタイムに共有できるので、例えば遠隔地にいるエキスパートから、まるでその場に居合わせているかのようにリアルタイムでのアドバイスや支援を受けることもできます。そのため、インダストリアルメタバースは予知保全やトラブル対応だけでなく、訓練にも有効です。

プロモーション力・マーケティング力の向上

インダストリアルメタバースの技術を活用することで、マーケティングやプロモーション活動も革新的に進化します。例えば、仮想空間内での疑似体験型ショールームを構築することで、商品やサービスの特徴を顧客へ直感的に伝えることが可能となります。これは、特に遠方の顧客や新しい市場の潜在的な顧客に対して、実際の製品やサービスを体験してもらうことが難しい場合に非常に有効です。このような新しいアプローチはブランドのイメージや価値を高めることにも貢献し、強力なブランディングツールとしての役割も果たします。

ビジネスにおけるインダストリアルメタバースの具体的活用例

製造現場のメタバース化

ある大手重工業メーカーは、製造現場全体をメタバース化する大規模なプロジェクトを発表しました。これが実現することで、工場の工程や設備の稼働状況などを仮想空間上でリアルタイムにモニタリング・操作することができるようになると目されます。同時に、MR技術なども併用することで、複数の拠点で同時に共同作業したり、専門家による遠隔サポートを受けられるようにしたりすることも計画されています。

人手不足問題へのアプローチ

ある大手化学系メーカーは、製造プロセスを常に最適な状態で運用するために、デジタルツインを導入しました。これによって、遠隔からもリアルタイムで製造プロセスを監視することが可能となり、異常や効率低下をすぐに検知し、対応できるようになりました。さらに、ベテラン社員がメタバースを介して疑似的に現場の確認やサポートができるようになったことで、人手不足の問題を緩和する助けにもなっています。

メタバース上での製品発表

インダストリアルメタバースの事例からは少々ズレますが、ある大手自動車メーカーは、新製品の発表会をメタバース上で実施しました。この発表会では、顧客がメタバース上で新製品を視認できるだけでなく、製品の試乗や検討、購入、契約までの一連の流れを完結できるようにしています。イントリアルメタバースはよりリアルに製品を再現することができます。この再現性の高さによって、物理的な制約を乗り越えて多くの顧客接点を持つことができ、製品の訴求を効果的に行えるようになりました。

インダストリアルメタバースの今後の展望

現状、インダストリアルメタバース市場はまだ初期段階にありますが、今後10年間で大きな成長が期待される分野です。

その根拠としては第一にメタバース市場の急拡大が挙げられます。2022年には618億米ドル規模だったメタバース市場は、2027年には4,269億米ドルに達する見込みです。この成長率は驚異的であり、年平均成長率(CAGR)にすると、47.2%に上ると予測されています。

また、インダストリアルメタバースの基幹技術であるデジタルツイン市場の将来性も高いと見られます。ある調査によれば、その世界的な市場規模は、2022年に86億米ドルであったものが、2030年までに1,376億7,000万米ドルと、16倍以上に成長するとの予測です。

このように、メタバースやデジタルツインの市場全体が大きな成長を遂げる中で、その発展・応用形態であるインダストリアルメタバースも大きく成長していくと考えられます。

メタバースの世界市場:コンポーネント別 (ハードウェア、ソフトウェア(XRソフトウェア、ゲームエンジン、3Dマッピング・モデリング・再構成、メタバースプラットフォーム、金融プラットフォーム)、専門サービス)・業種別・地域別の将来予測 (2027年まで)

参照元:https://www.fortunebusinessinsights.com/digital-twin-market-106246

まとめ

本記事では、インダストリアルメタバースの概要、利点、実際のビジネスへの活用例、今後の展望について述べました。インダストリアルメタバースは、デジタルツイン技術とメタバース技術を組み合わせたもので、仮想空間上での製造、設計、予知保全などのビジネス活動を可能にします。インダストリアルメタバースは今後、製造業に革新的な変革をもたらす可能性のある要注目の技術です。

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